民泊を経営する流れは?必要な資格・経営時のポイントを解説
国内外からの旅行者増加にともない、民泊が注目を集めています。大手企業だけでなく、個人でも気軽に運営できることから、民泊経営に興味を持つ方が増えているでしょう。
しかし、実際に民泊を始めるには、資格や許可といった手続きが必要です。そのため、どのように準備を進めるべきか不安に感じる方も多いかもしれません。
この記事では、民泊経営を始める際の具体的な流れから必要な資格、成功するためのポイントについて詳しく解説します。また、民泊運営におすすめな入退室管理システムについても紹介しているので、セキュリティ対策を強化したい方は、ぜひ参考にしてください。
1.民泊の種類
民泊には、以下の3つの種類があり、それぞれに特徴や規制が異なります。
- ・旅館業民泊
- ・特区民泊
- ・新法民泊
どの業態が理想とする民泊経営に適しているか見極めるためにも、特徴をしっかり確認しておきましょう。
旅館業民泊
旅館業民泊は、年間を通じて営業できる業態です。ホテルや旅館に近い形態の民泊として、365日営業して安定した利益を得ることが可能です。
なお、旅館業法には、以下の3つに分類されています。
- ・旅館・ホテル営業
- ・簡易宿所営業
- ・下宿営業
それぞれ要件が異なるため、施設設備や周辺地域のニーズに応じた選択が必要です。
ただし、都市計画法や建築基準法、地域の条例により、そもそも旅館業の許可を取得できない場所も存在します。また、建物の用途変更には大規模な改修や建て替えが求められるケースもあります。
運営には自治体の許可が求められ、営業できる地域も限定されているため、運営開始までのハードルが高いといえるでしょう。
特区民泊
特区民泊は、国家戦略特区に指定された地域でのみ認められる業態です。
運営には自治体の条例に従う必要があり、2泊以上の滞在が義務付けられています。滞在日数の制限がある一方で、年間を通じて営業できるメリットがあります。
ただし、特区民泊が許可されている地域は限られており、執筆時点では全国で8地域のみです。そのため、特区民泊を検討する際は、まず自身の施設がその地域に該当するかどうかを確認することが重要です。
新法民泊
新法民泊は、年間の営業日数が180日以内に制限されている業態です。
手続きは簡単で、必要書類をそろえて届出を提出するだけで営業が開始できます。ほかの民泊業態と比べ、許可が下りるまでの時間が短く、早期に民泊経営をスタートできるでしょう。
ただし、180日という営業日数の制約があるため、収益が限られる点には注意が必要です。また、自治体によっては追加の規制もあるため、物件が所在する地域の条例や関連する法令を事前に確認することが大切です。
2.民泊を経営する流れ
民泊の申請は3つの方法で行えますが、実際に運営を開始するまでには、ほかにも多くの準備が必要です。ここでは、民泊を経営する流れについて、各ステップで押さえておくべきポイントを交えて詳しく紹介します。
手順1:物件探し・エリアを決定する
自宅以外の物件を購入して民泊を運営する場合は、まずエリアを決定し、そのエリア内で最適な物件を選ぶ必要があります。
立地を選ぶ際には、交通の便がよい場所が集客に有利ですが、その分物件価格や賃料が高くなる傾向があります。逆に、民泊のコンセプトによっては、あえて郊外を選ぶことで独自の魅力を出すことも可能です。立地と物件のバランスをよく考え、民泊運営に最適な物件を選びましょう。
手順2:業態別に手続きを行う
民泊を運営するには、業態ごとに異なる法律にしたがって申請を行う必要があります。運営形態によって必要な手続きや申請先が変わるため、事前に適切な準備を整えましょう。
なお、申請が正しく行われないと違法営業とみなされる可能性があるため、注意が必要です。
旅館業民泊に必要な続き
旅館業法民泊には、運営する予定の建物を管轄する保健所に申請しなくてはいけません。
許可を得るには、民泊施設が旅館業法で定められた基準を満たしていることが条件となります。具体的には、宿泊者が10人未満の場合、一人あたり3.3m2以上の床面積が必要です。もし、物件が基準に合わない場合は、必要に応じて改築や工事を行う必要があります。
なお、以前は宿泊定員にかかわらず、すべての施設において床面積33m2以上が必要でしたが、平成28年の規制緩和により、宿泊者数に応じて面積が柔軟に設定されるようになりました。これにより、比較的小規模な施設でも民泊の運営がしやすくなっているでしょう。
特区民泊に必要な続き
特区民泊を経営するには、内閣総理大臣と都道府県知事から「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」の認定を受ける必要があります。認定を受けると、通常の旅館業法の制約を受けず、住宅として扱われる特別な枠組みで民泊を運営が可能になります。
特区民泊の認定を受けるには、宿泊施設が国家戦略特別区域内に所在していなくてはいけません。また、居室の床面積は、最低でも25m2以上である必要があります。
加えて、滞在期間についても、2泊3日から9泊10日以上が義務付けられています。条件をすべてクリアし、必要な手続きを完了すれば、特区民泊としての運営が認められるでしょう。
新法民泊に必要な続き
新法民泊を始めるためには、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、管轄する都道府県知事に届出を行う必要があります。「住宅宿泊事業届出書」に必要な情報を記入し、指定された添付書類と一緒に提出しましょう。
なお、家主が民泊施設に住んでいる場合、住宅宿泊事業者として、衛生管理の徹底、宿泊者への騒音防止の説明、近隣住民からの苦情対応、宿泊者名簿の作成と保存、そして標識の掲示が求められます。
一方、家主が現地にいない場合、標識の掲示を除くすべての項目について、住宅宿泊管理業者に管理を委託しなくてはいけません。
手順3:事業計画書を作成する
民泊の認可や申請を終えたら、次に重要なのが事業計画書の作成です。
事業計画書は、民泊の内容や運営方針を明確にし、関係者や金融機関に事業の方向性を伝えるための重要な書類です。事業計画書を作成することで、事業の目的や運営方法を具体的に示し、資金調達や事業の進行をスムーズに行うための基盤を整えられます。
手順4:開業資金を調達する
民泊開業後も安定した経営を維持するには、しっかりとした資金計画が欠かせません。
民泊開業に必要な資金は「すでに家を所有しているか」「リフォームが必要か」といった条件によって大きく変わります。たとえば、すでに持ち家があり、リフォームの必要がない場合、購入すべきものは家具や家電、消防や空調設備、生活用品などに限られます。費用は、数十万円から100万円程度の資金があれば始められるでしょう。
しかし、自宅を民泊として貸し出す場合でも、寝具やアメニティは新調する必要があるため、まったく費用をかけずに始めるのは難しいかもしれません。自己資金だけで足りない場合は、ほかの資金調達方法を検討することが重要です。
出資者を募ったり、銀行からの融資を受けたり、補助金や助成金を活用することで、必要な資金を確保し、民泊の安定した運営を支えるための基盤を築けるでしょう。
手順5:物件をリフォーム・リノベーションする
物件が営業に必要な基準を満たしていれば、特別な改装をしなくても民泊経営自体は可能です。新しい物件なら、手を加えなくてもそのまま宿泊施設として活用できる場合が多いでしょう。
しかし、古民家を活用して民泊を始める際には、宿泊者が快適に過ごせるようにリフォームやリノベーションが必要です。たとえば、バスルームやキッチンの設備を最新のものに変更したり、断熱性能を向上させたりなどが挙げられます。
さらに、宿泊者が「ここに泊まってよかった」と感じるようなデザインも重要です。たとえば、和の趣を生かしつつ、モダンな要素を取り入れたインテリアや、庭のライトアップなど、視覚的に楽しめる工夫を施すとよいでしょう。
とくに、SNSで話題になるようなおしゃれで魅力的なデザインを取り入れた改装を行うと、より多くの宿泊者を引きつける効果が期待できます。
手順6:設備や家具・アメニティを準備する
設備や家具、アメニティの準備が整っていることで、予約率やゲスト満足度の向上につながり、最終的には利益の最大化に大きく貢献します。
具体的には、テーブルや椅子、収納家具、冷蔵庫、電子レンジ、テレビ、洗濯機などの基本的な家具や家電が必要です。快適なインターネット環境を提供するために、フリーWi-Fiの設置も考慮しましょう。
また、宿泊者が快適に休めるよう、布団やシーツ、枕といった寝具も欠かせません。タオルや洗面用具などのアメニティも用意し、エアコンや換気設備といった空調設備を整えて、快適な室内環境を保つことが大切です。ほかにも、安全対策として、非常灯や火災報知器、消火器などの消防設備も設置しておきましょう。
なお、アメニティはゲストの満足度に直結するため、ターゲットとなるゲストに応じた選定が重要です。たとえば、女性客には、美容やリラクゼーションをテーマにしたアイテムが喜ばれます。高品質のシャンプーやコンディショナーに加え、フェイスパックや入浴剤を複数用意しておくと、好みに応じて選べる楽しさを提供できるでしょう。
ただし、アメニティを過度に豪華にすると、コストが増えすぎて収支が悪化する可能性があります。インテリアは一貫したコンセプトを持ってデザインし、アメニティは満足度を高めつつ、コストを抑えて赤字を避ける範囲で充実させることが重要です。
手順7:民泊の内観写真を撮影する
民泊の内観写真は、ゲストに物件の魅力を伝え、滞在のイメージを具体的に描かせるために非常に重要です。
明るく清潔感のある写真を撮影し、部屋全体の広がりを感じさせるためには、自然光を活用し、撮影前にしっかりと掃除しておくことが大切です。部屋の全体像と設備、アメニティがわかるように、キッチンやダイニング、リビング、ベッドルームなどの主要なエリアを詳細に撮影しましょう。
また、ゲストが日中に外出することが多いので、夜の雰囲気も伝わる写真を用意するとよいでしょう。可能であれば、プロのカメラマンに依頼して高品質な写真を撮影してもらうのもおすすめです。
プロの技術で撮影された写真は、より魅力的に物件を映し出し、集客効果が高まります。
手順8:民泊サイトに登録する
準備が整ったら、民泊サイトへ登録しましょう。民泊サイトとは、宿泊場所を提供したい人と宿泊先を探している人をつなぐマッチングサービスです。主要な民泊サイトに物件を掲載することで、ゲストに広く認知してもらい、予約につなげられます。
一般的な、民泊サイト登録の流れは以下のとおりです。
- 1.民泊サイトへアカウント登録
- 2.宿泊条件を設定
- 3.予約の受付開始
民泊運営の第一歩として、早めに民泊サイトへの登録を済ませておきましょう。
3.民泊の経営に必要な資格
民泊経営において、必ずしも資格を取得する必要はありません。なぜなら、民泊とは、所有しているまたは借りている住宅を利用し、旅行者などに宿泊サービスを提供するビジネスだからです。そのため、不動産取引には該当しません。
ただし、運営費用をできるだけ抑えたい、または安全な運営のための知識を身に付けたいと考える場合、資格の取得が有益なことがあります。
ここでは、民泊運営に役立つ資格について詳しく紹介します。
住宅宿泊管理業者になる場合
住宅宿泊管理業者として登録すると、民泊施設の管理業務を担当することが可能です。
民泊には「家主居住型」と「家主不在型」の2種類があります。家主不在型で民泊を運営する場合、必ず住宅宿泊管理業者に管理を委託する必要があります。しかし、自分自身が住宅宿泊管理業者として登録し、直接物件の管理をすることも可能です。
ホストが住宅宿泊管理業者として登録するためには、住宅の取引・管理における2年以上の実務経験が求められます。実務経験がない場合は、以下のいずれかの資格を持っていることが条件となります。
- ・宅地建物取引士
- ・管理業務主任者
- ・賃貸不動産経営管理士
なお、住宅宿泊管理業者として新規登録するには、登録免許税として1件につき9万円がかかります。また、5年ごとに登録の更新が必要となる点にも注意が必要です。
旅館業民泊で経営する場合
旅館業法に基づく民泊運営を考えるなら、一級建築士の資格が役立ちます。
なぜなら、旅館業法による運営は、民泊新法とは異なり、許可を取得する必要があり、手続きは非常に複雑だからです。一級建築士の資格を持っていることで、要件をクリアしやすくなり、申請がスムーズに進む可能性が高まります。
一級建築士の資格を取得するには、大学や専門学校で指定された科目を履修した上で、二級建築士または建築設備士の資格を持っていなくてはいけません。試験は学科試験と製図試験の2つに分かれており、学科試験は毎年7月、製図試験は10月に実施されます。
ただし、一級建築士の試験は非常に難易度が高く、合格率は毎年10〜20%程度です。資格取得を目指す方は、対策講座や試験対策を十分に行いましょう。
スムーズに開業したい場合
スムーズに開業したいなら、民泊適正管理主任者の資格を取得しましょう。民泊適正管理主任者を取得することで、民泊新法や旅館業法、建築基準法、消防法などの基礎知識をしっかりと身につけられるため、申請や届出がスムーズに行えます。
また、不安や疑念を持つ管理組合やオーナーからの信頼度も高まり、円滑なコミュニケーションが図れるというメリットもあります。そのため、民泊事業をこれから始める方や、開業したばかりで知識を深めたい方におすすめです。
取得には、特別な前提条件はなく、誰でも受験可能ですが、東京リーガルマインドが提供する認定講習会に参加する必要があります。講習は約5時間で、終了後にはレポートの提出が求められます。
4.民泊を経営する際のポイント
民泊経営を成功させるには、さまざまな要素を総合的に検討し、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、民泊経営の際に押さえておくべき6つのポイントを紹介します。
立地は慎重に選定する
民泊事業を始める際に最も重要なポイントは、立地選びです。立地がよければ、施設の魅力を最大限に活かしやすく、安定した集客を見込めます。
たとえば、東京であれば観光地や主要駅に近い山手線沿線や浅草周辺、横浜や大田区などのエリアが人気です。地方の場合、観光地からのアクセスがよい場所や、美しい景観を楽しめるオーシャンビューの立地が望ましいでしょう。
立地によって集客力が大きく変わるため、慎重に選定しましょう。
初期費用やランニングコストを抑える
民泊事業をスタートする際は、物件の取得やリノベーション、家具・設備の導入など、多くの初期費用がかかります。そのため、コストを抑えつつ効率的に資金を回収し、利益率を高めることが求められます。
たとえば、高価なブランドの家具や家電を選ぶと、初期投資が大きくなりがちです。ニトリやIKEAなどの手頃な価格でありながら品質のよいアイテムを活用することで、初期費用を抑えつつ、十分な機能性と快適さを提供することが可能です。
また、日常的な運営コストも重要な要素です。エネルギー効率のよい設備の導入や、定期的な保守点検を行うことで、長期的なコスト削減につながるでしょう。
適切な料金を設定する
民泊経営を成功させるには、周囲の物件と同じくらいの料金に設定することが重要です。
初期費用や家賃、運営代行手数料などを考慮すると、宿泊単価を高く設定したくなるかもしれません。しかし、価格設定が高すぎると稼働率が低下し、逆に低すぎると収益が圧迫される可能性があります。
民泊新法に基づく民泊を経営するには、月に約15日の予約が入る価格帯を設定することで、収益の最大化が可能です。価格設定は収益性に直結するため、適切なバランスを保ちつつ、周辺市場と比較して競争力のある料金を設定しましょう。
利用者にルールが伝わるよう工夫する
民泊には、初めて利用する方や外国人観光客も多いため、すべてのゲストにルールが伝わるよう配慮することが重要です。
まず、ルールは口頭で説明するだけでなく、部屋にマニュアルを設置する方法が有効です。さらに、英語や中国語などの外国語でもルールを表記することで、国際的なゲストにも配慮できます。ルールをわかりやすく提示することで、宿泊客の理解を促進し、トラブルの防止につなげられるでしょう。
万が一に備えて保険・補償サービスに加入する
民泊運営には、一般の火災保険が適用されません。そのため、事故や火災、そのほかのトラブルに備えて、民泊専用の保険に加入することで、万が一のリスクに備えられるでしょう。
たとえば、一般社団法人民泊民宿協会が提供する補償サービスを利用するのもひとつの方法です。民泊民宿協会の補償サービスは、基本的に個別の見積もりが必要なく、一般的な民泊なら1日あたり68円〜110円で補償を受けられます。
リーズナブルな費用で、大きな安心感を得られるでしょう。
セキュリティ対策を施す
民泊では、不特定多数の利用者が出入りするため、セキュリティ対策が重要です。
最も多く見られるトラブルのひとつが、備品の盗難や損傷、破損です。ゲストがトイレットペーパーやシャンプーなどの消耗品を持ち帰るケースも珍しくありません。
また、ホテルとは異なり、スタッフが常駐しない民泊では、不審者が施設に出入りする可能性もあります。セキュリティを強化するためにも、防犯カメラや入退室管理システムの導入を検討しましょう。
セキュリティがしっかりしていれば、安心して利用してもらえる環境が整うでしょう。
こちらの記事では、入退室管理システムについて解説しています。種類や価格相場も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
5.まとめ
民泊を経営するには、関連する法規や条例、消防法、建築基準法など多くの規制に従う必要があります。規制を見落とすと、工事のやり直しや違法営業のリスクが生じるため、事前にしっかりと確認し慎重に進めることが重要です。
また、宿泊客の出入りが頻繁な民泊では、鍵の受け渡しや管理が大きな課題となります。入退室管理システムを導入すれば、誰がいつどこに入退室したのかをクラウドで管理でき、鍵の管理やセキュリティの強化に役立つでしょう。
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